GCI優秀者研修旅行【ロンドン編】

はじめに

この記事はGCI優秀者研修旅行のロンドン編です。

GCI優秀者研修旅行とはなんぞや?という方はこちらをご覧ください。

出発 - ロンドン到着

成田

今回の旅行は2018年9月24日から10月1日のスケジュールでした。初日はほぼ飛行機で移動だけだったのですが、朝成田空港に集まるところから始まりました。 飛行機の搭乗の時間が11時だったので全体の集合は9時だったのですが、僕はクレカがお亡くなりになっていたので現金を換金したり、保険に入ったりとやることが多かったので 朝8時過ぎには空港についていました。

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成田出発

ヘルシンキ

今回はフィンランド経由でイギリスに行ったので途中のヘルシンキで乗り継ぎがありました。ヘルシンキは森の中に転々と街があるといった感じの自然豊かな都市でした。

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ヘルシンキの街並み

ヘルシンキ空港の中では待ち時間が少しあったのでみんなで近くのお店でビールを飲みました。

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みんなでビール

その後、乗り継いだ飛行機でヒースロー空港に向かいました。ヒースロー空港まではあまりかかりませんでした。ロンドン着が大体現地時間の18:00ごろだったと思います。

ホテル到着

その後、空港でタクシーを捕まえ、ロンドン市内のホテルに向かいました。

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ホテルの様子

川上さんとディナー

その後、St.Pancras駅構内にあるブリティッシュパブで、現在博士課程に在籍しながらDeepMindインターンをしていらっしゃる松尾研修士卒の川上さんと会食に行きました。

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ブリティッシュパブの料理

僕はフィッシュ&チップスを頼みましたが、なかなか量があって食べ応えがありました。イギリスの料理はマズイことに定評がありますが、意外なことに美味しかったです。松尾先生いわく最近料理のレベルが上がってきているんだとか。ただし、グリーンピース山盛り(ミント味)、お前だけは許さない・・・

川上さんとの会食ではDeepMind社について色々と聞くことができました。

DeepMind社は会社としては、研究開発組織の色合いがかなり強いらしく、川上さんも会社の利益に繋がるかどうかなどを一切考えることなく研究に専念できているとのことでした。話を聞いただけの印象ですが、大学にも雰囲気は近いのだろうかと感じました。

今回の旅行にはPreferred Networks(PFN)のサマーインターンに参加していた方も二人いたのですが、その人たちの話も聞いたところPFNも雰囲気としてはかなり近いとのことでした。

個人的には、DeepMindは巨大組織のため社員は数千人いるという話は意外でした。その中でも様々なチームがあり活発に動いているそうです。また、論文になるかどうかということを考えながら研究しているわけではないので、論文にはならなさそうな研究も沢山あり、カンファレンスなどでDeepMindとして現れる研究はその中のごく一部なのだそうです。

会社の利益になるかどうかを考えずに研究に専念できる、という環境を維持し続けられることについても質問が上がっていましたが、どうしてそんなことが可能なのかという明確な回答は川上さんにもわからないとのことでした。

その後、近くのKings Cross駅を見に行きました。かの有名な9と3/4番線も見てきました。

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夜のKings Cross

2日目 ATI - RCA - Babylon

朝食と朝の散歩

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朝食
朝食がビュッフェ形式だったので欲張って取り過ぎたら食べ切るのが大変でした。向こうの食事は全体的に塩味が強い印象を受けました。

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ロンドンの静閑な住宅街
その後、朝のロンドンを散歩しました。ロンドンはこの時期はもう朝は寒いようで、みんな冬服になっていました。

ロンドンは観光地などでは全然ないような場所も全てレンガづくりの街並みが広がっていて街全体としての統一感が非常に美しい都市でした。大通りを歩いていても楽しいですが、一本隣の道に入って地元の雰囲気を味わうのもなかなかよかったです。

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浅草 in London
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ホテルからの景色

Alan Turing Institute訪問

その後、研修旅行最初の訪問活動としてAlan Turing Institute(ATI)に行きました。ATIは、イギリスの大学が共同で立ち上げたAIの研究機関で発足は2015年とのことでした。

ATIBritish Libraryの一室にオフィスがあり、その前には名前にもあるAlan Turingにちなんで第二次世界大戦の時に使われたエニグマ暗号機が飾られていました。

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エニグマ

ATIでは、組織の沿革についての話と、Ph.Dの方が現在研究している内容についての話を伺うことができました。

ATIはAI研究の中でも基礎研究や共同研究に注力する組織で、事業としての展開やユースケースケーススタディなどは行わないそうです。その意味でイギリスのAI研究を下支えする研究機関という立ち位置を担っているという印象を受けました。

その上でATIが初期の目標として掲げているのは、

  • Safe and Ethical A.I.
  • Robotics

とのことでした。Safe and Ethical A.I.というのは研究室でもよく話題に上がる倫理的なAI、説明可能なAIといったAIの課題として話題になっている事柄とかなり近いと感じました。また、Roboticsは松尾先生の講演の中でもあった、機会が目を持つようになったことで今までできなかった領域における自動化が促進される、といった話と近いのかなと思いました。

ATIがSafe and Ethical A.I.を実現するにあたって重要としている事柄は

  • Fairness
  • Transparency
  • Privacy
  • Security
  • Robustness
  • Control

など多岐に渡っていたのですが、その中でもこの時はFairnessに関する取り組みを少しお話していただけました。

ATIが取り組んでいる研究の一つ、Counterfactual Fairness[1]という話をざっくりと聞かせていただきました。非常に大雑把な説明をすると、人間の意思決定を任せるようなシステムにおいて、公平性が担保されているかどうかを確認する手法で、反実仮想的な問いかけをシステムに対して繰り返し結果の出力の変化を観測する方法です。例をあげると、ローンの貸付の審査を行う自動化システムにおいて、ある男性が貸付をするという結果を得たとして、もし仮にその男性のapplicationのうち性別に関する部分だけを女性に変化させたとして結果が貸付をしない、というものになったとしたらそのシステムは何らかの差別的な学習をしてしまっている、と判断する、というようなことだそうです。

この説明は誤りがあるかもしれないので、詳しくは論文を参照していただければ、と思います。

その後、ATIPh.Dとして研究を行なっているAlvaroさんから、交通流の最適化に関する研究についてお話していただきました。 Alvaroさんは航空宇宙の出身で数学の博士を取った後、現在はATIPh.Dとして研究活動を行なっている、という方でした。

Alvaroさんは、ATIで都市交通に関してデータ探索やシミュレーションのテストシナリオを作成するツールの開発や、交通システムに対する変更の影響をシミュレーションなどを駆使して評価するような研究を行なっているとのことでした。交通システムなどの巨大で複雑なシステムにおいてはエージェントの行動がシステムの挙動を変更してしまうような現象が起こる(Knock on Effectと表現していました)ため、適切に影響を評価することは現在になっても難しいとのことでした。

今回はそのAlvaroさんの研究活動の中でも、交通信号の表示の仕組みを強化学習を使って最適化し、信号待ちで止められる車の台数を低減する、という研究に関して発表を聞きました。交通信号のアルゴリズムは、最適化が難しく全体として待ち時間を最小化するような解を得るためには個々の信号の最適化ではうまくいかない、という研究がこれまでになされてきたようです。Alvaroさんはこれに対し、強化学習のアプローチを用いてシミュレータにおいては改善することを確かめたとのことでした。今後は実データでの検証なども視野に入れながら研究を進めるとのことです。

Royal College of Art訪問

その後、Royal College of Art(RCA)を訪問しました。RCAはデザインシンキングなどで有名な大学でした。今回は、たまたまRCAに9月から短期の留学をしている僕の高校同期の磯部くんがRCAツアーのアレンジをしてくれました。

RCAは三つキャンパスがあるそうなのですが、今回はその中でもWhite City Campusを案内していただきました。RCAは、異なる分野、異なるバックグラウンドをもつもの同士が協調することによる可能性を強く信じている大学とのことで、ワーキングスペースの配置なども異なる分野に強みをもつもの同士が隣り合うようにするなどしているとのことでした。

また、学生が発表や自己の作品などを発信する機会を非常に多く取っているとのことでした。

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RCAで行われた展示会の様子

このような展示会のためのスペースや学生同士が話し合うためのスペースなどがあちこちにあり、空間設計に非常に気を使っている印象を受けました。東大の近辺にもコワーキングスペースのようなものは近年増えていますが、それよりもはるかに多くのワーキングスペースを設けてありました。また、White City Campus自体もそうですし、その隣にある建物もBBCが以前は所有していたとのことでそこにあったスタジオのような設備も使えたりと制作活動に専念できそうな環境が揃っていました。キャンパス内の広場のようなところには、テーブルゲーム台やチェスなどがおいてあり、学生同士が遊んでいました。また、たまに屋外の広場に巨大なディスプレイが出されていることがあるそうで、みんなでサッカーを見たりするそうです。

近くにはEU内最大のショッピングモールがあったり、一室を買うとしたら100万ポンドは下らないだろうというマンション?などがあり賑やかな地区という印象を受けました。

f:id:koukyo1213:20181011180148j:plainf:id:koukyo1213:20181011180154j:plain その後20分ほど歩いて、2日前までやっていたというLondon Design Festivalの会場の一つを見学しました。 f:id:koukyo1213:20181011180646j:plainf:id:koukyo1213:20181011180702j:plain

この場所は、バイオデザインの展覧会場だったのことで、プレハブの一つ一つがバイオデザインの研究室なのだそうです。アイデアはあってもお金や研究環境へのアクセスがない人がかなりの低額でプレハブの研究スペースを借りて独自の研究をすることができるようにしているとのことで研究を支援する環境が整っている街なんだ、という印象を受けました。

その後、案内などもしてくれた磯部くんと個人的に留学についてや今後の身の振り方などについて濃い話をした後、ロンドンでの最後の訪問先のBabylon Healthに向かいました。

Babylon Health

Babylon Healthは医療系AIのスタートアップで創業から数年しか経っていないにも関わらず、海外展開をしていたり400人以上のスタッフを抱えていたりと非常に勢いを感じるスタートアップでした。

Babylonの掲げる医療におけるAIの導入は、病院における医師のサポートや日々の生活における病気予防など多岐にわたるそうで医療という分野で様々に手を広げているようでした。

この時の訪問では、自閉症の早期発見や患者の感じる痛みの検知などに使われる顔画像からの感情分析の話をしてもらいました。 顔画像からの感情分析のタスクは昔からあるタスクで、僕も研究室の大先輩の博士論文などで見かけたことがありますが、CNNによる画像処理タスクの大幅性能改善により新たなブレイクスルーを迎えたそうです。このタスクは顔画像の抽出と画像内の顔の感情分析の二つに大きく分けられます。

顔画像の抽出も現在の最新の成果では、98%以上の精度で抽出できるようになっており、100人以上の顔が写っているような写真からほぼ誤りなく顔を抽出できている様子などは非常に衝撃的でした。 また、感情分析のタスクでは、各感情の間に位置するような微妙な表情の分析が難しいとのことだったのですが、これをAction Unitという人間の顔で変化しやすい点を事前知識として定義するという比較的古典的な手法と各Action Unitがどのような値を取っているかという関係をグラフとして扱ったMarcov Random Fieldの学習として解くことで大幅な性能改善を行なったとのことでした。

仔細は論文を確認した方がいいのですが、残念ながら論文のタイトルを忘れてしまったのでまた後ほど・・・

食事

その後、RCAの紹介のアレンジメントをしてくれた磯部くんと会食をしました。 f:id:koukyo1213:20181011183012j:plainf:id:koukyo1213:20181011183018j:plain

肉料理にはハズレはなく、食事を楽しむことができました。その後、近くのラーメン屋さんに松尾先生といきましたが、驚いたことに日本のラーメン屋と比べてもまったく遜色ないくらい美味しかったです。松尾先生はどうやら食事に関しては一家言あるようで、旅行中の他の機会にもラーメン屋さんにご一緒させていただきました。

3日目 パリへ移動

3日目は朝早くに起きてパリへユーロスターで移動しました。

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St.Pancras
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Platform
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Eurostar
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フランスの田舎

基本的にユーロスターから見られる眺めはずっと広大な平原とところどころある林と、ポツポツと見える町でした。牧歌的な雰囲気がとても気に入りました。

続きはパリ編で・・・

参考文献

[1] Kusner, M. J., Loftus, J., Russell, C., & Silva, R. (2017). Counterfactual fairness. In Advances in Neural Information Processing Systems (pp. 4066-4076).